タイ北部の山岳少数民族たち(1)


 新年から何回か続けてタイ北部(チェンラーイ県、チェンマイ県)の山地に住む少数民族の村を訪ねている。昨年は中国・ラオスベトナムの国境周辺をうろついたが、今年はタイ国内をうろつこうと思っている。
 新年はチェンラーイ県ドイチャーン周辺の村。今回はチェンマイ県ファーン郡の村を訪れた。どちらも定点観測的に定期的に訪問している村だ。
タイでタクシン氏が政権を取ってから以降ここ何年かで急速に村々は変貌を遂げている。村おこし的、というか、一村一品運動的な政策で地方のモチベーションをあげつつ、ばら撒き行政で道路,電気,住宅の整備と同時に地方の人々の借金を容易にし、経済のパイを膨らませているのだ。何のことは無い、やっていることはサブプライム問題を起こしたに米国近いインフレ政策だ。

 別にそれらの政策に批判的になっているのではぜんぜんない。陳腐な言い回しだが、かつてどこの国でも起こったような貨幣経済の浸透で古い伝統が大きく変化してしまう(あるいは伝統文化が破壊される)ことが、当たり前に起こっているだけのことである。道ができると人が交流し、異なる民族間での血統の交流も加速し、結局各少数民族としてのアイデンティティーは汎タイ民族に収斂されてゆくだろう。

 郡都などの大きな町には巨大スーパーマーケットが出現して、消費の機会を提供すると同時に、大量のパートタイマーの雇用も行われている。タイ北部地方でこれらのスーパーの1日当たりパート代は120B(バーツ)程であるが、今まで物々交換を中心に現金はほとんど必要としない、あるいは年に何回かの換金作物の栽培で必要最小限のものを購入する程度の暮らしがいきなり精出して働けば彼らにとっての欲望を満たすに足るお金が手に入るという現実にやはり何か大切なものも同時に失っているような気がしてならない。失うもの、そして新たに得るもの。どちらが大切なものだろう?それでもあえていえば彼らの欲求はとてもささやかなものである。お金で買える今すぐ欲しいものとは、娯楽のための安いブラウン管カラーテレビ、移動のためのオートバイ、そして携帯電話。ただそれだけだ。