桜咲く村(1)

 僕ら日本人にとって桜という花はやはり特別な花だと思う。いま僕はタイに住んでいるが、この南国タイにも桜の咲く場所がある。タイ北部チェンライ県の山奥ドイチャン村。標高1500m程の高地だ。そもそもラオス、中国雲南省に近いこのチェンライ県はタイで気候の涼しい場所として知られているが、この場所はさらに標高があるので冬季は最低気温が5度〜10度、最高気温も20度前後になる12月の終わりから1月の初旬にかけて一斉に開花する。
 ここ数年は新年をここで過ごすことが多くなった。一昨年末には、この村への舗装工事が終わり4WD車両でない一般車も入れるようになった。実はチェンライ県にはドイメーサロンというもう一か所桜で有名な場所がある。そちらの方が規模も大きく開かれた場所にあるのだが、観光化が進み写真の被写体にはなりにくくなってきているのであまり出向くことはしない。
 このドイチャン村は山の斜面でコーヒーの栽培が盛んで、ブレンドコーヒーの増量用に癖のない豆として多くが海外に輸出されている。村も換金作物の栽培で次第に豊かになってきていて、観光開発に力を入れようとする動きもあると聞く。そんな観光開発なぞしなくてもよいのに。今のままでいてくれたらよいのに。と、わがままな僕は思ったり。
 この村は雲南系中国人、リス族、アカ族の混在して住んでいる村だ。台湾からの援助や投資が入っているので村の規模はこの界隈ではドイワビー村に次いで大きな村だ。以前はヘロインの原料になるケシの花を栽培していた人々ではあるが今はコーヒーの栽培、あるいはお茶(頂凍烏龍茶という銘茶)を栽培している。道が整備されたのでぽつぽつと民宿やキャンプ場を始める人々が出てきた。またバンコクからのタイ人観光客も少しづつ増え場じめている。
 白人観光客は、たまにこの山の上のチェンライ市内へと至る未舗装の道を4WDのコンボイで爆走してゆくだけで、さしてこの村に立ち寄ったりする気はなさそうなのがせめてもの救いだ。一人二人の白人旅行者が村に長期滞在しているくらいなら別段気にもならない。