タイ北部の山岳少数民族たち(2)

wanwanwan_992008-04-26


 以前は夕方になると家々から囲炉裏の煙が上がり、畑仕事を終えたものたちがそぞろ集まってきて、私の持ってきた酒をおいしそうにちびりちびりとやりながら、何だか少しほっとした感じの夕刻のひと時をすごしたものだった。いまは安酒なんかいくらでも麓のスーパーマーケットで買える。別段貴重品というわけでもない。大手スーパーで働いているものはそんな早い夕方に帰ってこれるわけでもない。職の無い暇そうなオヤジと孫を育てているおばあちゃん(彼女らだけはいまだに民族衣装も着てくれているが)がぽつぽつと顔を出してくれるだけである。以前はこの夕刻時に若い娘さんたちもおめかしして、写真を撮って!とたくさん集まってきたものだった。町に下りることは、1日がかりの大変な仕事だったし、何よりも電気もテレビも無い村には娯楽が無かった。そんな中でふらりと訪れる私のような「旅人」は、村人の興味を大いにそそったのだと思う。もっともいまどきは、農作業に従事する若者たちでも、帰って食事をすれば楽しいテレビが待っている。村の訪問者も別に珍しいもんじゃない。だいいち町で毎日一緒に仕事をしているのはそういう普通の人々たちだ。もうそこには何の「特別なこと」は存在しない。ちょっと気の利いた家には地上波ではなくて多チャンネルの衛星パラボラが設置されている。それも1軒2軒の特別なもんじゃない。

ここらは愚痴になってしまう。でもね、以前は楽しかった。子供や若者が集まってきて夕餉の囲炉裏の前で楽しく下界の話をしながら、前に撮った写真を持って行ってあげるともう娘さんたちは目をきらきらさせて。そういう楽しみはもう無い。ただ、そうは言っても村人たちの暮らしはあるし何日か滞在すればそれなりの生活感も感じられ、彼らも生活を変化させながらまた新しい問題に悩んだり、抗ったりしているのだ。ということが見えてくる。